以前、唐揚げ屋さんを手伝ったときの出来事を記事にしました。
その記事では、店長が「あえて行列ができるように商品を提供していた」という話を紹介し、少しだけ行動経済学にも触れました。
今回は、その出来事を行動経済学の視点から、さらに深掘りしてみたいと思います。
「行列ができていると、つい並びたくなる」
「1つだけ買うつもりだったのに、なぜか2つ買ってしまった」
皆さんにも、そんな経験はありませんか?
自分では冷静に決めているつもりでも、私たちの判断は、周囲の状況や商品の見せ方に大きく左右されます。
こうした、人間の必ずしも合理的とはいえない判断や行動を研究するのが行動経済学です。
今回は、一冊の本と唐揚げ屋での実体験を手がかりに、「人はなぜ選び、なぜ並び、なぜ予定より多く買ってしまうのか」を一緒に考えていきましょう。
行動経済学を学ぶきっかけになった一冊
今回参考にしたのは、相良奈美香さんの『行動経済学が最強の学問である』です。
行動経済学の考え方が体系的に整理されており、ベストセラーにもなった一冊です。
正直に言うと、私は一度読んだだけですべてを理解できたわけではありません。
二度、三度と読み返しながら、仕事や日常生活の中で実際に使ってみることで、少しずつ腹落ちさせていきたいと思っています。
そんな中、本に出てきた内容と、これまでの自分の経験が重なる部分がいくつかありました。
その一つが、以前手伝った唐揚げ屋での出来事です。
行動経済学は、用語だけを覚えようとすると難しく感じます。しかし、実際の出来事に当てはめると、「あのときの行動は、こういう心理だったのか」と理解しやすくなります。
行動経済学をこれから学びたい人も、今回初めて知った人も、私と一緒にあの日の出来事を解析してみましょう。
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唐揚げ選手権で起きていた「選択オーバーロード」
想像してみてください。
あなたは唐揚げ選手権の会場に到着しました。会場を見渡すと、およそ30店の唐揚げ専門店が並んでいます。
もちろん、すべての店の商品を買って食べ比べるのは現実的ではありません。
「どの店から買おうか」
「一番おいしい店はどこだろう」
「選んだあとに、別の店のほうが良かったと後悔しないだろうか」
選択肢が多いことは、最初は魅力的に見えます。しかし、多すぎる選択肢は比較を難しくし、かえって決められなくなることがあります。
これが「選択オーバーロード」と呼ばれる現象です。
有名なジャムの実験では、24種類を並べた場合と6種類を並べた場合が比較され、種類が少ない売り場のほうが購入につながりやすいという結果が報告されました。
ただし、「選択肢は必ず何個が正解」と一律に決められるわけではありません。
商品への知識、選択肢の違い、比較のしやすさ、買う人の目的などによって、選びやすい数は変わります。
大切なのは、単純に商品数を減らすことではありません。
お客様が比較しやすい形に整理し、選ぶ基準を示すことです。
「朝専用」の一言が、選ぶ理由をつくった
ここで少し横道にそれます。
私が商品コンセプトに衝撃を受けた製品に、「ワンダ モーニングショット」があります。
缶コーヒー売り場には、さまざまなメーカーの商品が並んでいます。ブラック、微糖、カフェオレ、深煎り、香り重視など、違いを一つひとつ比較するだけでも大変です。
そこに登場したのが「朝専用」という、非常に分かりやすい言葉でした。
アサヒ飲料は2002年、「朝」という時間軸をコンセプトにしたワンダ モーニングショットを発売しました。
同社の資料でも、商品開発・広告・販売促進を朝に特化させたことが、大ヒットにつながったと紹介されています。
「朝に飲む缶コーヒーを探している人」にとって、「朝専用」は選ぶ理由になります。
これは、選択肢そのものを減らしたわけではありません。商品の見せ方を工夫し、買う人が判断しやすい基準をつくった例だと考えられます。
行動経済学には、人が選ぶ環境を設計する「選択アーキテクチャー」という考え方があります。
また、選択の自由を残しながら、より良い行動を後押しする方法は「ナッジ」と呼ばれます。
「朝専用」という言葉を、そのまま厳密な意味でナッジだと断定するのは難しいでしょう。
しかし、お客様が迷わず選べる手がかりをつくるという点では、営業や商品提案にも通じる考え方です。
ただの缶コーヒーも――と言うと少し失礼ですが――「朝専用」という一言で、飲む場面と選ぶ理由が一気に伝わります。
このコンセプトを考えた人は、本当にすごいと思います。
行列を見ると並びたくなる「社会的証明」
さて、唐揚げ選手権の会場に戻りましょう。
30店を前にして決めきれずにいたあなたは、長い行列ができている店を見つけました。
「これだけ多くの人が並んでいるなら、きっとおいしいのだろう」
そう考え、とりあえず最後尾に並びます。
これは「社会的証明」で説明できます。
自分だけでは判断しにくいとき、ほかの人の行動を判断材料にする心理です。特に、初めて訪れた会場で店ごとの違いが分からないような場面では、行列が「多くの人に選ばれている」という分かりやすい情報になります。
流行しているものを自分も選びたくなる「バンドワゴン効果」も、これに近い考え方です。
ただし、営業で使う場合は注意が必要です。
存在しない人気を演出したり、わざとお客様を待たせたりするのは、信頼を損ねる危険があります。
営業で示すべき社会的証明は、実際の導入事例、正確な販売実績、お客様の声など、事実に基づく情報です。
「売り切れるかもしれない」が価値を高める希少性
行列を見て、さらに次のように考える人もいるでしょう。
「こんなに並んでいたら、売り切れてしまうかもしれない」
手に入りにくいものや、残りが少ないものを高く評価しやすくなる心理は、「希少性の原理」と呼ばれます。
ここで大切なのは、行列そのものと希少性を分けて考えることです。
単に人が並んでいるだけなら、それはまず人気を示す社会的証明です。数量限定、販売時間の制限、売り切れの可能性などが加わることで、希少性が強く意識されます。
営業でも、「残りわずか」「今月まで」といった言葉は強い力を持ちます。だからこそ、事実でない限定表現は使ってはいけません。
本当の在庫数や期限を正確に伝えたうえで、お客様が判断に必要な情報を提供する。それが信頼される営業の使い方です。
途中で列を抜けられない「サンクコスト効果」
列に並んで20分が過ぎました。
思ったより進みません。ほかの店に移れば、もっと早く買えるかもしれません。
それでも、こう考えてしまいます。
「ここまで並んだのだから、今さら抜けるのはもったいない」
すでに使ってしまい、戻ってこないお金・時間・労力を「サンクコスト(埋没費用)」と呼びます。
本来は、これから得られるメリットと、これから必要になる負担を比べて判断すべきです。しかし人は、すでに使った時間や労力を無駄にしたくないために、そのまま行動を続けてしまうことがあります。
これがサンクコスト効果です。
仕事でも同じことが起きます。
成果が出ていない方法に対して、「ここまで時間をかけたのだから」と、さらに時間やお金を投入してしまう。営業活動でも、見込みの薄い案件を、それまで費やした労力だけを理由に追い続けてしまうことがあります。
そんなときは、「過去にいくら使ったか」ではなく、「これから続ける価値があるか」と考え直す必要があります。
2パック買ってしまったのは「努力の正当化」かもしれない
長い時間並び、ようやく自分の順番が来ました。
最初は1パックだけ買うつもりだったのに、こんな考えが頭をよぎります。
「これだけ長く並んだのに、1パックだけではもったいない」
そして、なぜか2パック買ってしまう。
これはサンクコストだけでなく、「努力の正当化」という考え方でも説明できます。
人は、手に入れるために大きな労力をかけたものほど、「それだけの価値があるはずだ」と評価しやすくなることがあります。
つまり、唐揚げそのものの味や量だけでなく、行列に並んだ時間まで含めて、商品の価値を高く感じていた可能性があるのです。
もちろん、実際の購買行動を一つの心理効果だけで断定することはできません。
「人気店だから間違いない」という社会的証明。
「売り切れるかもしれない」という希少性。
「ここまで並んだのだから」というサンクコスト。
「苦労して手に入れたのだから価値がある」という努力の正当化。
こうした複数の心理が重なった結果、予定より多く買ったと考えると、あの日の行動が少し理解しやすくなります。
ただ唐揚げを買っただけなのに、こんなに行動経済学の勉強ができるとは、自分でも驚きです。
人間は自分の意思だけで判断しているつもりでも、周囲の状況からかなり大きな影響を受けているのですね。
行動経済学を営業でどう生かすか
今回の話を一言でまとめるなら、行動経済学は「人が自然と選びたくなる仕組み」を考えるための学問です。
自営業者や企業で営業に携わる人が行動経済学を学べば、お客様が迷う理由を減らし、商品を選びやすくする提案ができます。
たとえば、次のような工夫です。
- 提案を「基本・おすすめ・充実」の3案に整理する
- それぞれの違いを比較表で見せる
- お客様の目的に合う「おすすめ」を明示する
- 実際の導入事例やお客様の声を紹介する
- 在庫数や期限がある場合は、事実を正確に伝える
商品を提案する前に、まずは選びやすい環境をつくる。
相手が自分で納得して判断できる状態を整える。
これも、営業の大切な仕事です。
ただし、行動経済学は相手を思いどおりに操るための道具ではありません。
選択肢を分かりやすく整理し、必要な情報を正直に示し、お客様が自分に合うものを選べるように支える。その姿勢がなければ、一時的に売れたとしても、長期的な信頼にはつながりません。
まとめ|選ばせるのではなく、選びやすくする
今回、唐揚げ屋での出来事を次の5つの視点から振り返りました。
- 選択肢が多すぎて決められない「選択オーバーロード」
- ほかの人の行動を判断材料にする「社会的証明」
- 手に入りにくいものを高く評価する「希少性の原理」
- 使った時間を無駄にしたくない「サンクコスト効果」
- 苦労して得たものを高く評価する「努力の正当化」
営業側に必要なのは、お客様を誘導して無理に買わせることではありません。
お客様が迷っている理由を見つけ、比較しやすい形に整理し、納得して選べる状態をつくることです。
一方、消費者としては、「人気だから」「限定だから」「ここまで時間を使ったから」という理由だけで決めていないか、一度立ち止まって考える必要があります。
そうしないと、私のように唐揚げを2パック買って帰り、家で怒られることになります。
皆さんは、行列に並んだ結果、予定より多く買ってしまった経験はありますか?
コメントで教えていただけるとうれしいです。
また面白いビジネス書を読んだら、自分の経験と照らし合わせながら記事にしたいと思います。
では、また今度!だんだんな!




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